今月のBOOK

(2004年 3月号)

本好きの私が、心に残った一冊を紹介します。



「THE HOURS めぐりあう時間たち」
マイケル・カニンガム作
高橋 和久訳
集英社

イギリスの女性作家ヴァージニア・ウルフの「ダロウェイ夫人」という本に関連しながら、3つの異なる時代に生きる女性の三人三様の一日の心の流れを描いている。
2002年公開された同じタイトルの映画の原作。
日本で公開された時、すぐ観に行ったけれど、原作は知らなかった。
涙が出るほど感動したので、この原作本を見つけたとき、もう一度感動できると思いわくわくしながら読んだ。結果、悪くはなかったのだけれど、ちょっと意外な感じがした。

あんなに感動して涙を流したシーン(ウルフを捜しにきた夫との再会のシーンとか,ブラウン夫人が子どもを預けに行くシーンetc・・・)とかに限って、原作では違っていた。
まあ、映画は盛り上がるような仕立て方でないといけないので、当たり前といえば当たり前なんでしょうが・・・。
どちらがどうとは言えなくて、原作には原作の、脚本には脚本の色や香りがある。
すごいと思うのは、両方とも男性が書いてるってことかな。

ニコールキッドマンは、これでアカデミー主演女優賞をとったわけだけど、今までは彼女にあんまり興味なかったけれど、、もしかして想像してるより奥が深い?と思ったりもした。

余談ですが、この邦訳本の表装には、ジョン・エヴァレット・ミレー作「オフィーリア」(劇「ハムレット」で溺死する悲劇のヒロイン)の絵が使われています。
ウルフの最期と、オフィーリアの最期が重なりあっているということでしょうか。




「小説新人賞は、こうお獲り遊ばせ」
奈河 静香作
飛鳥新社


図書館で、偶然見つけた一冊。
著者は、「下読み」をなさっている方。「下読み」とは、公募文学賞の一次選考担当者の業界用語。
膨大な数の作品を、審査員の先生方がまさか最初からひとつずつ読むんじゃないとは思っていましたが、こんなに重要なお仕事をなさっている人がいらっしゃったとは初耳でした。ヘエ〜、ヘエ〜。
いくら本好きとは言っても、自分の好む好まざるにかかわらず、とにかく作品を飲み込んでいかなければならないつらさ。本当に大変なお仕事です。
けれど、静香嬢はきっぱりとこうおっしゃっています。
「贋物に騙されるより、本物を見逃すほうが重大な過失」であると。

2004年は、若い女性二人が芥川賞を受賞したことで話題にもなりましたが、こういう方達の「砂金すくい」の努力があって、私達もすばらしい作品に出会うことができるというわけなのでしょう。
静香嬢御自身、ほのかにイロニーを漂わせつつ、、肝要なところは的確にピンポイント攻撃していくというところは、さすがに文章の達人だと思いました。
特別付録の作家出世双六なども、とても参考になりました。