今月のBOOK
(2004年 4月号)

本好きの私が、心に残った一冊を紹介します。




『蛇を踏む』
川上 弘美作
文芸春秋

                   
2004年は、「蛇にピアス」という小説で、金原ひとみが芥川賞を受賞した。
1996年には、 「蛇を踏む」という小説で、川上弘美が第115回芥川賞を受賞している。
「蛇」つながりということで、はじめて川上弘美の作品を読んでみた。

正直に言おう。私がこの世で一番嫌いなもの、いや一番怖いと思うもの、それは「蛇」なのだ。
蛇だって、動物の一種類なのだから、存在することに何の罪もないはずだけれど、
あんな細い紐のような体で、するすると地面を這う姿とか、チロチロあらわれる赤くて小さな舌だとか、いかにも邪悪そうな冷たい目とか、もう想像しただけで、鳥肌が立ってくる。

だから、「蛇を踏む」というタイトルを見たときは、一瞬エ〜ッって感じだった。
ところが、一歩、川上ワールドに足を踏み入れると、不思議なくらいするすると入り込めてしまう。
川上は、自分の書く小説を、ひそかに「うそばなし」と呼んでいると告白している。
「ウソ」だとわかって読者は読んでいるのに、いつの間にか「ホント」のことにも気づき始めている。その「ホント」は、「ホント」の事をありのままに書いた「ホント」よりも「ホント」らしいのである。
(なんのこっちゃよーわからんという方は、ぜひご一読を。)

『蛇の世界はあたたかいわよ。』
どこからか、私も誘われているような声がして、ゾクゾクっとする。
もしかしたら、蛇の世界からやっと逃げ出してきたのに、いまだに首絞められて引きずり込まれようとしているのかしらん・・・。(^−^;)




『おしゃれ手紙』
大橋 歩
柳生 まち子作
潟}ガジンハウス

大橋歩と柳生まち子という二人のイラストレーターが、仕事ではじめた26回の文通を一冊の本にまとめたもの。
二人ともイラストレーターという仕事柄、手紙のあちこちにちりばめられたたくさんのイラストには、それぞれの個性が表れていて、どちらも楽しい。

以前から、大橋歩のイラストは大好き。
「生活を楽しむ」ための努力を怠らない彼女に刺激を受けて、キッチン雑貨とかにもずいぶんと関心を持つようになった。
「普通の暮らしの中に楽しみを見つける」ことが、とても上手な二人が、こうやって文通を続けると、こんな素敵な一冊の本になるんだなあと思った。

イラストは書けないけど、気の合う人とこんな手紙のやりとりができたらいいだろうな。
何度読み返しても楽しい、元気をくれる一冊。